Miki’s Essay 鈴木みきのカナダのお山へGO! 第6回

レインボー・アイランドでカヌーキャンプ ~BC州滞在記その3 ストラスコナ2日目~

(photo:Jun Yanagisawa)

イラスト マップ

2日目は午後からカヌーでキャンベル・レイクへ漕ぎ出します。
目指すはRainbow Island (レインボー・アイランド)という小さな島、今夜はそこでキャンプなのです!
食料や荷物をカヌーに積み込んでいくというのですが、私のカヌー歴はたったの2回、いずれも14年前のカナダでした。乗った記憶はあるのですが、その感想がどうだったかは思い出せません。私は泳げることは泳げるのですが、水辺にあまり親しんだことがないのでけっこうナーバス。思い浮かぶのは「最悪の事態」ばかり…。大丈夫だろうか?

出発前、パークロッジのガイドのロビンからミーティングをしようと声がかかりました。外のテーブルに地図を広げて行程や荷物の説明が始まります(もちろん英語)。
なんでも、島までは約8キロで所要時間2時間ほど、5人全員でひとつの艇に乗ること、自分の荷物は濡れないようにビニールやドライバック(防水袋)に入れること、雨が降りそうだからレインウェアをすぐ着れるように…。
雨!? 雨が降ったらカヌーの中に水が溜まって沈まないだろうか?! 防水って、まさか落ちることもあるんだろうか?!
「沈むってことはあるんでしょうか?」「多分、ないわ!」そうロビンは言いましたが、私の頭はどよーんと沈んでいくのでした。

いよいよ、出発です。みんなで荷物を積み込みます。
山登りしか知らない私にとっての驚きは「こんなにたくさん荷物があっていいんだ!」でした。食料のコンテナに水のコンテナ、テントやシュラフに…5人分もあるし濡れないように頑丈に梱包されているせいもあるかもしれませんが、その量と重さにはびっくり。そしてまた「こんなに積んで沈まないのだろうか?」本当に弱気ですね。

カヌーにはエンジンはもちろん、舵も付いていません。舵を取るロビンはいちばん後ろに乗ります。そしていちばん前はペースメーカーです。そのあいだは動力人員となります。いちばん前が艇の左側を漕いだら、2番目の人は右側、3番目は左側と交互に漕ぎ、ペースメーカーと一緒のタイミングでオールを動かすのだそうです。意外にもこの私がそんな重要な役割を仰せつかりましたが、左右を交換するかけ声も緊張で上ずります。
「チェンジ~~」

岸から私たちを撮影していたジュンさんが乗り込むときに場所を交代してもらい、再出発。漕ぎ出しはちょっと重いのですが、スピードが乗ってくると楽になってきます。1時間ほど漕いで気持ちに余裕ができてきたので「水深はどのくらいあるんですか?」と聞いてみると「80メートルくらい」との返事。
…聞かなきゃよかった。と後悔。

湖面をゆっくり進むカヌーとゆっくり流れる風景、音も静かでポツンと宙に浮いているような感覚があります。山を歩いていると地面を踏みつけて多少でも山にインパクトを与えている気にもなるものですが、カヌーはただ流木のように流れているだけです。なんというか自然の一部にすぎないような、そんな静かな感覚に陥ります。今にも熊が顔を覗かせそうな湖畔をカヌーから眺めていると、永年変わらぬ大きな自然のなかに今いるのかもしれないな、と沁みてきます。大昔から波があれば揺られ、風が吹けば押し戻され、でも前に進もうと一所懸命漕いでいる人間って可愛いなと思ってみたり。

誰かと一緒に漕いでいる安心感もあって、時間を追うごとに私の気持ちは穏やかになってきました。
「見えてきたけど着かないねー」「遠いねー」と後ろから声が上がっても私はそのもっと先へいつまでも漕いで行きたいほどでした。

レインボー・アイランドに到着!

レインボー・アイランドは小さな無人島でキャンプサイト(指定地)になっています。浜にはきちんと「Rainbow Island Marine Camp (レインボー・アイランド・マリーン・キャンプ)」の看板が。よく見るとファイヤーピット(焚き火場所)もあります。もちろん水洗ではありませんが、清潔感のあるトイレもありました。こういう一見すると大自然真っ只中という場所まで整備が行き届いているのは、さすがカナダと思うところです。

キャンプサイトの看板と、島の中央部にあるタンク埋没式トイレ (photo:すずき)

ロビンの指示に従ってテントの設営をします。私とNさん、ジュンさんとJさんの2張、隣合わせたテントサイトですが、いい距離感で木で遮られていてお互いには見えません。
すぐ目の前には湖面がきらめいています。Nさんと「いいところだなぁ」と、つい声が出ました。

ゆったりとしたテントスペース (photo:すずき)

オールドマン・ビアードは日本のサルオゴセと同じ仲間 (photo:すずき)

私たちがもたもたテントを張っている間、ロビンは火を起こそうと格闘していました。雨が続いていたので薪となる木が湿っていて難しそうです。焚き付け用にロビンが持ってきていたのはOld Man Beard (おじいさんのヒゲ)という通称の木の枝に乗っかるように自生する地衣類、その名のとおり長く伸びたヒゲのように枝からぶら下がってカナダの森の風景の象徴的存在といってもいい植物。これを乾かして使うんですって。

私たちは散歩がてら薪を集めにいきます。といっても、すぐ見える場所で流木がたくさん集まってしまいました。流木はよく乾いていてすぐ燃えるので、山より焚き火は楽チン!

夕食は持ってきたビールを飲みながら少し手伝いをしただけでロビンが作ってくれました。メニューはサケ野菜炒めとライス。生の野菜もたくさんあるし、鍋も大きいし、キャンプってこういうことなんだ! と妙に感激。そしてこれを運べるカヌーってやっぱりすごいなと思いなおすのでした。

左、湖でBCビール「コカニー」と、BCワインを冷やす!
右、カラフルな野菜や小物がキャンプに色を添える
(photo:すずき)

ロビンが食後に教えてくれたキャンプの定番おやつ「S’more(スモア)」、これが…美味しかった!
作り方はいたって簡単、焚き火で焼いてとろけたマシュマロをグラハムクッキーにチョコとはさんで出来上がり! このグラハムクッキーの香ばしさと歯ごたえが美味しさのポイントだと思います。あんまりにも気に入ったので、後日スーパーで同じのを購入しました、私。(日本でも輸入食品店で購入可能です)

20時を回るころ、ようやく辺りが暗くなってきました。湖に私たちだけの小島。曇り空も割れて色の変化がきれいだったので、あらためて散歩に出かけました。水際をとぼとぼと歩いていくと空とも湖ともいえない一面の色、「ああ、いいなあ…」。ゆっくりと夜がそこまで来ていました。島の1周はたったの15分ほど、でも何だか旅をしてきたような気分でした。

眠くなるまで火のそばでお喋り。実はロビンは弁護士を目指して勉強中の才女、でも山やキャンプやカヌーもやりたいから困っちゃうと言っていました。彼女は生粋のアウトドア培養されたカナディアン、運動が苦手でアウトドアに消極的な私とはかけ離れているけれど、だからといって理解できないと放り出したりはせずに「まあ、いいんじゃない」と接してくれる。ガイドという立場もあるけど、黙々と自分で動き、もちろんサポートは全く惜しまない。彼女の好きなところは他にも。変に楽しませようとせずに冷静でマイペース、おかげで言葉はあんまり通じないけど居心地がいい人という印象でした。
ロビンはこれまでに何度もこういう風景との時間に身を置いてきたんだろうなぁ、と閉ざされているような広がっているようなこの自然空間に思いました。海のようなさざ波が聞こえていました。

(photo:すずき)

世界最大のお客さま!

夜、用を足したくて目が覚めました。身を隣り合わせているNさんを起こさないように、ゆっくりとテントのファスナーを開けます。少し湿った冷たい空気が入り込んできます。身をかがめ片足ずつそおっと外に出し、置いてあるKEENのサンダルを突っかけました。左足…右足…と、そのときにつま先に異物感を感じました。

「ああ、昨日きっと酔っ払って泥を歩いたんだ」と寝ぼけながら思ったように、それは泥のような湿った柔らかさでした。靴下を汚すのを避けて右足は中途半端に脱げたまま用を足してテントに戻りました。 「なんかさっきと違うな」と思いサンダルにヘッドライトの光を当てると、黄色い物体が張り付いています。

これがバナナスラッグ! 別日に現れた大物 (photo:すずき)

「Banana Srag(バナナ スラッグ)だ!!」

バナナスラッグは北米にいる世界最大のナメクジ、その大きさは小さめのバナナほどもあります。
「ひいぃ~」声にもならず仰け反ります。
彼は突然の不法侵入者から身を守ろうと「東京ばなな」くらいの大きさに縮こまっていました。(彼よりも私のほうが被害者だと思うのですが)指で掴もうとしても、ぬるぬるでしかも硬直していて、ビクともしません。この騒動にNさんも目を覚ましてしまったので事情を説明すると「きっと、そこの居心地が良かったんですね~」と可愛いことを言う。私も「まあ、そうか」と諦めてそのままにしてテントのファスナーを閉めたのでした。

翌朝、サンダルをのぞくと、ぬるっとした粘着液を残して消えていました。ロビンをはじめカナダ在住の2人にも話しましたが「長年いるけど、そんな人はじめて」と笑われました。
もしかしたら私、「世界初、ナメクジを履いた女」なのかもしれません。

さよなら、レインボー!

朝食は昨夜の残りのライスを卵と炒めたもの。私なら5人分で卵4つくらいが適量の卵炒飯でしたが、それはお米ありきの日本の感覚だと知ります。ロビンの投入した卵は1パック(8~10個)、どちらかと言えばスクランブルエッグ(ライス入り)という趣き。しっとりした卵にライスが絡まっていて、これが美味い! カナダで新たなご飯料理を発見することができました。

「飛ぶ鳥」ならぬ「漕ぐ鳥あとを濁さず」。片付けも徹底しています。「まあ、いいや」となりそうな小さなゴミでもロビンは最後までチェックしていました。

私たちがカヌーに乗り込むと島は何事もなかったように見えます。今日はここから1時間程先のピックアップポイントまで。そこでロッジの車がカヌーをピックアップ、その車で私たちはまた別の場所に移動です。今日はハイキング! 移動しながら行く先々で楽しむ、まさに旅! 私はじんわりと湧いてくる旅に出た解放感を、車窓を眺めながら味わっていました。短くもレインボー・アイランドの1泊は深く思い出に残るものとなりました。

鈴木みきプロフィール

鈴木みき
1972年東京生まれ。
山梨県・八ヶ岳南麓在住。
イラストレーター
24歳の時のカナダ旅行をきっかけに山にハマり、登山雑誌の読者モデルや山小屋アルバイトを経て、登山系イラストレーターとなる。

著書

「悩んだ時は山に行け!」
(平凡社)

「あした、山へ行こう!」
(講談社)

「ひとり登山へ、ようこそ!」
(平凡社)

「山小屋で会いましょう!」
(講談社)

「山テントでわっしょい!極める「山女子」のヨロコビ」
(講談社)

「私の場合は、山でした!
女一匹フリーター、じたばた成長物語」
(平凡社)

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