Miki’s Essay 鈴木みきのカナダのお山へGO! 第11回

ソルト・スプリング・アイランドへ! ~BC州滞在記 その7~

(photo:Jun Yanagisawa)

ビクトリア到着3日目は、フェリーに乗って本土とバンクーバー島の間に点在するガルフ諸島最大の島、ソルト・スプリング島へ。
最大と言っても、車で1周しても2時間ほどの小さな島。そこに多くのアーティストや自給自足生活を送る人たちが移り住んでスローライフを実践しているといいます。そんなオーガニックな雰囲気のこの島にはちょっと不思議な山があると聞いてやってきました。
この日の天気は雨模様、ビクトリアのSwartz Bay(スワルツ・ベイ)から車ごとフェリーに乗って35分、Fulford Harbour(フルフォード・ハーバー)に到着です。島の多いバンクーバー、気取らずに生活に密着した船での移動は味わいがあります。日本人観光客の姿も少なく、地元っ子になったような気分もなかなか気持ちいいものでした。

森のなかには妖精のモチーフがさりげなく散りばめられていた (photo:すずき)

不思議な山の噂は観光局のNさんからでした。「山のなかに7つの“妖精の扉”が隠されているんです」。それを見つけながら歩いていくそうなのですが…Nさんは前回4つ見つけるのが精一杯だったと言います。
“妖精の扉”とは一体どんなものなのでしょうか? 写真を見ても話を聞いても、その大きさやシチュエーションがイマイチつかめませんでした。ネットで調べても情報が少なく、場所を示した地図があるわけでもありません。でも、一度歩いているNさんもいるし、現地ガイドのノロさんもいるから見逃すことはないだろう、きっと「村おこし的」なものだろう…私は楽観的に構えていました。

その山の名前はMt.Erskine(アースキン山) 、島の西側にある標高450mの小さな山です。フルフォード・ハーバーから車で牧歌的な景色を約30分、雨は小雨となり島の中心Ganges(ガンジス)の街並みに入りました。毎週土曜日に開かれているサタデーマーケットの賑わいが伝わってきますが、お楽しみは後ほどにして後ろ髪を引かれる思いで通り過ぎます。「妖精の扉」といい「サタデーマーケット」といい、乙女心をくすぐる島でワクワクしてしまいます。

ところがどっこい、この後すぐにそれどころではなくなります。アースキン山のトレイルヘッドが……見つからない! 妖精の扉以前に山に登れない危機です。トレイルヘッドに導くような看板は皆無。確かこのあたりだったという記憶だけで車は宅地を右往左往。迷子になったおかげで素敵なお家をいくつも見ることができたのは良かったかな? 本当に地元の山という感じなのでしょうね。この先の雲行きの怪しさを感じつつどうにかトレイルヘッドを見つけることができ、ようやく出発となりました。

幸いにして雨は止みましたが少し肌寒くレインウエアを着て歩き出します。いつもながら驚くのですがトレイルヘッドから山のなかへ入った途端に空気が一変します。ついそこまで車に乗ってきたのが信じられないほど自然が濃くなるといった感じでしょうか。雨で湿った森は突然に静寂を私に差し出してくれます。しかし見惚れている場合ではありません。わざわざ日本からやってきて、この1チャンスに扉を見落とすわけにはいきません! 鼻息も荒く全員キョロキョロしています。木のウロを覗き込んだり、岩を裏までまわったり、ハンターのような目で森を見渡します。

「まだこの辺にはないはずですよ~」と悪戯な笑みを浮かべるノロさん。でも誰も全部見つけたことはないじゃないか! と聞く耳も持たずにウロウロ。普通に歩いていれば山頂まで1時間かからないのですが、テンデバラバラなペースで歩いているので、時間がどんどん過ぎていきます。1つたりとも見つからず、ひとり、ふたりとだんだん集中力が切れていきます。実はこの“妖精の扉”は島のアーティストが言ってしまえば勝手に作って設置したもの。噂だとひとりではなく何人かのアーティストがいるとか…いくら遊び心だとしても「扉」は作品、おそらく作家としては登山道から少しは見えるところに置くに違いない、これは私の推測。だって本当は誰かに作品を見て欲しいはず! きっと道から遠くとも見えている! そう思うとやっぱり見落としてなるものかと何度もフンドシを締め直します。

(photo:すずき)

それにしても実に美しい森なのです。雨のせいで余計に神秘的というか、本当に妖精が住んでいそうに思えます。実際には会うことも叶わない妖精を必死に大真面目に探すというのは大変に面白いことです。でも、ひょっとしたらいるんじゃないか? どこかではそう願っている自分がまた可愛い。もうどのくらい時間が過ぎたでしょうか、何かに集中して歩くというのはけっこう疲れる、ハッと気がつくと誰もいません。それは一瞬のことでした。みんなの声を頼りにいちばん後ろを歩いていた私、たった今までみんなの声がしていたのに…ちょうどそこは分岐、どちらの道の先もうっすらと白い靄がかかっていて誰の影もありません。こんなことがあるだろうか、まさかこんな場所でひとりぼっち…どっちに進もう?セオリーとしては山頂を目指しているのだから登り道でいいだろう、山頂に行けば再会できるんじゃないかな…安易にそう考えましたが地図すらありません。薄日の靄のなか、ぼんやりとしていると後ろから人が走ってきました。

「Hello!」「Hi」
いかにも地元の女子大生のワークアウトといった格好の恰幅のいい妖精です。私はキョトンとして仲間とはぐれたことを言い出せずに会話をしました。
「ハウアーユー? 悪くない天気ね!」
「私、妖精の扉を探しにきたんだけど…」
「それならこの上にあるわよ!」
「本当! 行ってみる!」
「でも、気をつけて。この辺にはクーガーがいるんだから」

彼女はその後、クーガーに遭遇した時の対処法を説明し、登り道を走って消えて行きました。私も登り道を上がっていきました。すると、あったのです、妖精の扉! それは見落としようもない道の脇にありました。実物は写真の数倍も可愛らしくて景色と馴染んでいます。…でも待てよ、みんながこれに立ち止まらないわけがないし、ここまで来たらひとりいないことにも気づくはず…私はこちらの道ではなかったと下り始めると、下からジュンさんの呼ぶ声がしました。
「いやあ、びっくりしたよ。大丈夫?」
「ごめんなさい、見失ってしまって…でも、扉あったよ!」
「うそっ!?」

どこにあるか、見つけられるかな?

みんなは分岐を真っすぐ進んだようですが、どちらの道も山頂に繋がるとのこと。そのまま登り道を引き返し、先ほど私が見つけた扉にジュンさんを案内しました。一度本物を見れば探すポイントや目線が絞られてくるというもの、次からは楽勝! と思いきや、はたまた全然見つからない。そこへ先ほどの彼女が下りてきました。
「さっきはどうも!あったでしょ、扉?」
「ええ、ありがとう」
「まだこの上にあるわよ!」

「それとね、山頂の小さな扉のなかにはノートがあるからね!」
そう言って彼女は機嫌よく走り去りました。“妖精の扉”の次は「ノート」…アースキン山の謎は深まります。しばらく歩いても「扉」は見当たりません。もうあってもなくてもいい、そんな気分にもなりかけたときでした。視界に感じる小さな違和感、「扉」です。先ほどとまた違う趣きで大きな木の根にありました。景色のなかの扉は本当におとぎ話そのもの! どんな妖精が住んでいるのか想像して胸が躍ります。開かないと知っている「扉」のノブをどうしても少し回したくなるのです。ノックしないと失礼だろうか? そんなことまで想いをめぐらせて…そんな少女に戻ってしまうような影響力…いや魔力かもしれません。

妖精の目線でしゃがみこんでいると、その先に…「あった!」あったのです、もうひとつ。ご近所にもう一軒、石のお家です。大のおとなが2人でキャアキャア言って駆け寄ります。なんていう粋なことしてくれるんでしょう、作家さんを尊敬します。まだ3つ目ですが今までの道のりが報われた気がしました。これはやはり自分で見つけるからこそ嬉しいのかもしれない! あと4つあるのが楽しみです。

ほどなく登ると広い山頂でした。あいにく展望はガスのなか。天気がいいと海が見下ろせるそうなのですが…あ、そうだった、「ノート」! よく見ると足元に埋められている小さなモニュメントの一部分が引き出しになっていました。開けてみるとそこに「ノート」が。それによると、このモニュメントはこの山に散歩で通っていた愛犬の死を悼む飼い主さんが作ったものでした。ノートは「足あとノート」のようになっていて、訪れた人からの書き込みがありました。私も日本語とイラストで足あとを。

ようやくそのころ白い靄の向こうから人の声がしてみんなが現れました。いい報告を期待していたのですが、ひとつも見つからなかったと言います。私とジュンさんが3つ見つけたと報告すると心の底から羨ましがって泣いていました。復路は私たちの登ってきた道を下り「扉」を共有。ノロさんが以前に見つけたという場所には見つからず、私が最初に見つけた扉の近くにきました。

「実は…」とノロさん。「この近くにもうひとつあるんですわ」とニヤニヤ。「これを見つけたときは我ながらスゴイと思いました」。ありそうな木や石を巡っていると「あ! あったー!」叫び声のするほうへ走っていきます。確かに!…ありました。ありましたけど、これ難易度高い! だって、道の脇にある岩の反対側の少し窪んでいる場所です。誰も見つけられないようで、その窪みも草が覆っています。

まだ見つけてないあとの3つもこうやって人知れず森に佇んでいるのでしょうか。気が遠くなります。最初、作家の意向としては「見えるところ」にあると踏んでいましたが、誰かのためではなく自分が楽しむために純粋に作った作品だったのかもしれません。本物の妖精の扉を作りたかったのかも。私が見つけた3つはサービスだったのです。この4つめの扉にしても、知らずに通り過ぎている人がほとんどでしょう。おそらく途中で出会った地元の彼女も何度もここを通っていても知らないはずです。それを想像しながら「うふふ」と笑っている作家さんの顔が目に浮かびます。7つあるとも限りません。「侮れん、妖精の扉…」これが私の感想。

思っていたより遥かに見つけるのが難しかった「妖精の扉」、最終的には4つ。悔しさがないといったら嘘になるけれど、4つ目を見たときに全部見つけなくて良かったと思いました。世の中には分からないことがあったほうがいいと思っている私は、7つ見つかったとしてそれが人為的なものと実証されてしまうのが勿体なく感じたのです。
目的があることでいつもとは違う山歩きができて、深い森も素敵だったし、妖精にも会えた…気もします。仲間には心配かけましたがあの神隠しにあったようなあの時空間、今思い出してもファンタジーな経験です。

鈴木みきプロフィール

鈴木みき
1972年東京生まれ。
山梨県・八ヶ岳南麓在住。
イラストレーター
24歳の時のカナダ旅行をきっかけに山にハマり、登山雑誌の読者モデルや山小屋アルバイトを経て、登山系イラストレーターとなる。

著書

「悩んだ時は山に行け!」
(平凡社)

「あした、山へ行こう!」
(講談社)

「ひとり登山へ、ようこそ!」
(平凡社)

「山小屋で会いましょう!」
(講談社)

「山テントでわっしょい!極める「山女子」のヨロコビ」
(講談社)

「私の場合は、山でした!
女一匹フリーター、じたばた成長物語」
(平凡社)

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