Miki’s Essay 鈴木みきのカナダのお山へGO! 第14回

熊の王国 ~BC州滞在記 その9~

(photo:Jun Yanagisawa)

カナダはベアカントリー、野生のクマが多く生息しています。大型でどう猛なグリズリーと小型のブラックベアの2種が山野を歩いています。クマは基本的には臆病な動物と言われていて、本来は人の前に姿を現すことがありません。山の餌が十分に得られずに里に下りてくるクマもいますが、ごく少数です。クマにしてみれば元々の縄張りに人が住み始めたのですから山も里も関係ないのですが、危害を加えたりする事故があるので日本でも騒ぎになるのを聞いたことがあると思います。
ウィスラーにもたくさんのブラックベアが暮らしています。山のなかの小さな街ですから、彼らも気ままに往来しているようです。私も目の前で目撃したので、ちょっとクマのお話もさせてもらいますね。

(photo:すずき)

ウィスラー住民もクマはいるものだと認識しているので、出会わないように注意をはらっているし、出会ったときの対処法も心得ています。クマの方も慣れたもので人間が危害を加えない存在だと思っているのか平然としています。これがいいことなのかどうなのかは私には判断できませんが、観光地ということを含めても人の住む場所からクマを目の敵にして排除せず、飼いならすようなこともせずに暮らしていることは素敵なことだと思いました。でもそれは当然なのかもしれないし、それが自然なことかもしれませんね。しかし、怖い反面、愛らしいので正直どう考えていいのかためらいました。

とはいえ、ウィスラーのどこにでもクマが歩いている訳ではないので少しご安心を。ばったり出会い頭になんてことは住んでいても滅多にはないそうです。でも「朝、会社に行くときに道路を横切った」とか「家の裏を通っていった」は日常会話で登場してましたけどね…。
おまけに7歳の男の子とお母さんの会話。
ボク「今日ね、マウンテンバイクで下りてきたら向こうにブラックベアがいたのね。ボクね、引き返して別の道から下りてきたよ」
ママ「えらかったわ! 素晴らしい機転だわ!」
ボク「怖かったけど、そうしたんだ!」
さすがウィスラーっ子!

ブラッコム山から下りてくると麓近くのゲレンデにはのんびりクマが2頭、なにか食べてます。ブラックベアは草食 系なので何かの実かな? リフト上で高見の見物。リフトに乗っているほかの人はそんなに驚いてもいない様子でした。テリトリーがあるのでゲレンデにはしばしば同じクマが見かけられるそうですが、ゲレンデの麓のビレッジには出て行かないようです。日当たりのいい場所が好きみたいですね。

ジュンさんが連れて行ってくれた、ローカルの人だけが知っているクマ遭遇スポット。オリンピックのときにできた道路らしいのですが、その後はあまり使われていないそう。道路ができて日当たりが良くなり、雪どけとともにクマの好きな青草が道端に生えるようになったとか。それを食べにきているクマを車からウォッチング! 鋼鉄の車のなかにいるせいか堂々と「可愛い」と言えました。

馬に乗ってハイキング

前回書いたようにブラッコム山にはフラれてしまった私、ビレッジに下りてくるとさほど天気も悪くない。むしろ夏の爽やかな山風が吹いていて余計に悔やまれるところです。
「じゃあ、次に行ってみよう~!」
私とは逆にちょっと嬉しそうなジュンさんと向かったのは、ビレッジ内のラフティングやマウンテンバイクなどのツアーを扱う会社。ここで私が参加することになっているツアーは、なんと「乗馬」! 小さい頃にポニーに乗った記憶はありますが、今回は馬です。高校生のときに一度だけ友人に体験乗馬に連れて行かれたこともありましたが、ここでは馬を引いてくれる人がいないとか…。実家に猫はいますが馬となると引っ掻かれるくらいじゃ済みませんし、賢いので人の心を読めてしまうなんて聞いたこともあります。私、犬によく見下されますし…とにかく、山を歩く以外は弱腰なのです。自分に自信が持てない…。

(photo:すずき)

「大丈夫!大丈夫!」ジュンさんはとても楽しそう、なぜならジュンさんは元カウボーイ。馬が大好き、乗るのはもっと好きなのです。時間になったので参加者とバスに乗ってグリーンレイクに向かいます。ビレッジからはほんの15分くらいでしたでしょうか。すぐに到着してしまいました。すると馬場がすでに見えていてお馬さんたちの大きなお尻がずらりと並んでいます。

「お、思ったよりも大きいですね」ドキドキの私、「おお!いい馬だね!」ウキウキのジュンさん。
どの馬に乗るんだろう? 気をしっかり持たないとなめられてしまう、と努めて笑顔で振る舞います。背筋のいいスタイル抜群の女性ガイドさんが馬の乗り方を説明してくれます。基本的には「歩け」「止まれ」「曲がれ」の3つだけの動作を覚えればOKなのですが、こんな初心者なのに本当に言うことを聞いてくれるのか心配です。しかも相手は外人(外国馬)、日本語はもちろん通じません。

「あなたの馬はタンゴよ。いい子だから安心してね」
台の上で順番待ちをしている私の目の前に連れてこられたタンゴ、大きいタンゴ。
「よろしくぅ」分かっていても日本語しか出てきませんが触ってみます。ああ、張りがあって立派な筋肉、生身の生き物です。ヨイショと跨ってみると高い! トコトコと勝手にタンゴが歩き出します。オットット! ちょっとだけパニック、でも前の馬に付いていっているだけのようです。試しに手綱を引っぱって「止まれ」の合図、止まる素振りを見せましたが止まらない。もっと強くなのかな? 恐る恐るもう少し強く引いてみます。一応数秒は止まってくれました! なんとかなるかな…?

隊列になって森のなかに入っていきます。馬のほうが慣れたもので前の馬にぴったりと付いて歩いていきます。日本の規定ではこのように引き綱なしで馬場の外を歩くには何度も訓練を受けないといけないのだそうです。それに受講料金も高いのでちゃんと通える人しか、このレベルにはたどり着けないのだと聞きました。それがカナダでは、こんな私が馬の背に揺られて森を歩いているのです。
「日本ではできないよ~」と後ろからジュンさんの声。確かにポニーに乗ったのも引き綱で歩いたのも「馬に乗っている」という、あたかも遊具に乗っているような印象しか残っていませんが今日はなにか違います。

小川に差し掛かりました。大きく背中を揺らして一歩一歩川に入っていきます。自分の足元なんか見えていないのに岩の上も器用なものです。私はビビリながら乗っているだけ、タンゴがいい子なだけです。渡りきると「タンゴは偉い子!」と感動してしまいます。乗り手として正しくはないとは思いますが、馬任せ。そのくらい馬のほうが訓練されていました。

タンゴの頭ばかり見ていましたが、だんだんと慣れてくると景色が見えてきます。この高さで森を見るのは初めてだと気が付きました。いつもは頭上にある木の葉っぱも今日は上から見えます。こんなふうに花が付くのだ、実が付くのだと気が付きます。視界もとてもいいのです。緑のなかを浮かんでいるよう。目線が変わると森もこんなに変わるものかと思います。タンゴが退屈そうに歩きながら草をちぎって食べるのも見えます。前の馬に食い込んで歩くのをたまに止めたり、ぬかるみで遅れるのを歩かせたりしているうちにこんな私の言うとおりにしようとしてくれるタンゴがどんどん愛おしくなってきます。

前の馬は文字通り道草ばっかり食っていました(photo:すずき)

ゆったり時間をかけて最後のメインイベントがやってきました。湖のなかを歩くのです。急に森から抜けて広々した景色が広がります。ザブザブと馬たちが次々に躊躇せず入っていきます。ガイドさんがみんなの写真を撮ってあげようと水の中を行ったり来たり、その姿がカッコよすぎで見とれてしまいます。あんなふうに自在に馬に乗れたら楽しいだろうなあ! 馬だって乗られ甲斐があるってもんです。てきぱきと動く馬にも感心していました。そしてカナダの景色に馬が似合うのです。ジュンさんもカウボーイ魂に火がついたのか、負けじとザブザブしぶきを上げて写真を撮っています。私とタンゴは2人のエキスパートにされるがまま湖にボーっと立っているだけでしたけどね。

最後、また森を歩いて帰ります。この景色を忘れないでいようと思います。人間だけの寸法で自然を捉えてはいけないなぁとしみじみ考えていました。大きい者、小さい者、速い者、遅い者、それぞれに違って見えていることを思うと、まだ私には見えていないものがたくさんあるに違いないと思いました。

タンゴと最後にハイ、チーズ。お世話になりました!

タンゴとの別れが近づいてきました。分かり合ったとは思いませんが、初めに比べると格段に身近な動物になりました。あんなにオッカナビックリだったのに出来ることなら持って帰りたいくらい可愛くなっていました。以前乗ったときと明らかに違うのは「馬と一緒に歩いている」という実感だったのかもしれません。私の前に現れたのがタンゴで本当に良かった。とても貴重な体験ができたと思います。

鈴木みきプロフィール

鈴木みき
1972年東京生まれ。
山梨県・八ヶ岳南麓在住。
イラストレーター
24歳の時のカナダ旅行をきっかけに山にハマり、登山雑誌の読者モデルや山小屋アルバイトを経て、登山系イラストレーターとなる。

著書

「悩んだ時は山に行け!」
(平凡社)

「あした、山へ行こう!」
(講談社)

「ひとり登山へ、ようこそ!」
(平凡社)

「山小屋で会いましょう!」
(講談社)

「山テントでわっしょい!極める「山女子」のヨロコビ」
(講談社)

「私の場合は、山でした!
女一匹フリーター、じたばた成長物語」
(平凡社)

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