Miki’s Essay 鈴木みきのカナダのお山へGO! 第15回

ジョフリー・レイクス・トレイルへ ~BC州滞在記 その10~

(photo:Jun Yanagisawa)

ウィスラー山もブラッコム山も例年になく雪が残り、私の滞在中には目的のトレイルのオープンが間に合わない雲行きに…。しかし、トレイルはひとつだけではありません。今日はウィスラーから車で1時間ほどにある「ジョフリー・レイクス・トレイル」を歩くことになりました。

こちらは手軽に「ある景色」を見られることで人気とのことで楽しみにしていました。そして今日はウィスラー在住の日本人女子、マーヤンが一緒に歩いてくれることになりました。
ウィスラーは小さい街ですが、わりあい多くの日本人が住んでいます。カナダは日本とのワーキングホリデー制度があるので、バンクーバーなどの都市部では数多くの日本人が働いたり勉強したりしています。ウィスラーの場合は長期、短期に関わらずウィンタースポーツが目的でやってくる人がほとんどでしょう。その後、カナダが気に入り移住したり留学しなおしたりする人もたくさんいます。マーヤンもそのひとり、ウィスラーに魅せられてしまったそう。
20年選手のジュンさんといい、マーヤンといい、生活の舞台を海外に持っていった人の軽やかさ、ためらいのないグローバル感覚はどこで養われたものなのでしょう。日本人は島国で視野が狭いと言われがちですが、果たしてそうなのだろうかと疑ってしまいます。

ウィスラーから離れていくと家はまばらになり、岩山と平坦な牧草地のような風景になっていきます。ふと、クリーク(小川)に目が留まります。いつもカナダでクリークを見ると特別な景色に感じていた理由が分かりました。そうか、護岸工事されていないんだ! 丈の長い草が水の中で流れにそよぎ、水際から木が生えています。川というよりも山から溢れ出た水の道、大地に自由にできた光の道です。おそらく私が見慣れている川とは違う景色だったのでしょう。いつも無意識にカナダの川は美しいな、と眺めていたのでした。ジュンさんに聞いてみるとウィスラーは嵐や洪水などの自然災害が少ないから護岸工事されないで済んでいるのではないかということでした。それに住人も少ないので人間のための工事をする必要もないということでしょうね。

トレイルヘッドに到着して身支度を整えます。今日は往復で6時間のコースなので気軽とはいえ、防寒着なども入れた登山装備でやってきました。
特に観光地に近いトレイルだとカジュアルな装備で歩く観光者も多く、その気軽さがカナダハイキングの魅力ではあります。スラッとした外国人がそうしているとカッコよくも見えるところですが、それを見習いすぎてはいけません。2時間以上歩くコースならレインウエア、防寒着、ヘッドライト、おやつ、水分の基本装備は必ず持つようにしたいものです。カナダは北海道と同じくらいの緯度になるので、気候も似ています。真夏でも暑くていられないといった日は少なく乾燥しているので朝晩は涼しいくらいです(この滞在時は寒いくらい)。体温調節できるように薄手のものを何枚か重ねていくといいでしょう。

それからカナダハイキングで忘れてはいけないもの…それは虫除け! 標高が高ければ問題ないと思いますが、森のなかなど低いところには湿地が多くて刺す虫が生息しているので注意が必要です。クリームタイプやスプレータイプなど現地のスーパーでも手に入れることができます。服の上からでも刺すので、私たちは毎回スプレーを浴びていました。靴、足元もお忘れなく。顔などはクリームタイプが便利で安全ですよ。

歩き始めて数分、さっそく虫除けの効果を試される場所にやってきました。Lower Joffre Lake(ローワー・ジョフリー・レイク)、ジョフリー・レイクスのトレイルには3つの湖があり、ここがいちばん下にある湖になります。天気がいいと「あの景色」がここからでも見えるのですが、このときはあいにくガスのなか…薄もやの湖も美しく申し分ないのですが、虫が目の前をブンブンプーン。ムズムズしてきてじっと立ち止まっていられません。なぜかローワー・レイクだけは虫が多いのだそう。時間帯もあるのかもしれませんが、景色も半ばに出発することにしました。湖から離れると、虫たちは途端にいなくなり獲物を追いかけてもこない。不思議ですね。

(photo:すずき)

オールドマン・ビアード(サルオゴセの仲間)が枝から無数にぶら下がるおとぎ話のような森を抜けると谷下の大きな岩のガレ場が現れました。さほど長くは続かないのですが足の短い私にはこれがなかなか手ごわい。きっとこの谷の雪か土砂が運んできた岩だと思いますが、こんな大きな岩をゴロゴロ転がす力は相当なものでしょう。エッチラオッチラ這い歩く私たちは蟻のようです。これまでの取材で訪れたなかで最も登山らしい道を歩いている感じです。

以前ご紹介したストラスコナのクレスト・マウンテンでも触れましたが、登山道は日本の低山、もしくは高い山へのアプローチ、つまり樹林帯部分と良く似ています。歩かれている部分が分かりやすく迷いにくいと思いました。このジョフリー・レイクス・トレイルにいたっては1本道で分岐もありません。ビジターでも気軽に登れるというのは、こういった理由なのかもしれません。

岩を越えると再び樹林帯の急登です。お喋りもできないほど息が絶え絶えでしたがマーヤンに聞くと急登はここだけなのでゆっくり行くことにします。

(photo:すずき)

その先には2番目の湖、Middle Joffre Lake(ミドル・ジョフリー・レイク)が待っていました。森のなかの静かな湖は、鏡のように硬質にも見えます。そして森の上に現れたのは白い山でした。ガスが上がり稜線まで見えています。ウィスラーで天気に恵まれず鬱積していたものもパアッと晴れた気分です。黒い山に分厚い雪がねっとりとへばりついています。もしかしてあれが「あの」…? 2人のほうに振り返ると、そこにも驚きの光景が!

手乗りウィスキージャック(カケスの仲間)!? なんと2人の手に鳥が乗っているではありませんか…なぜ? どうやらここを訪れる人が餌をあげているうちに、人間が腕を伸ばすと「餌だ!」と思ってとまるのだそう。そのうちに奈良の鹿みたいに噛み付かなければいいが…と思いつつもウィスキージャックの「あれ? ないの?」と小首をかしげる仕草が可愛い。私は腕を伸ばす勇気が出ませんでしたが、間近で見ることができてちょっと楽しかったです。

いよいよ3番目、いちばん上段にあるUpper Joffre Lake(アッパー・ジョフリー・レイク)まであと少し。ここは緩やかに登っていきます。木々の向こうに見え始めた水が青い、いや緑?クリームソーダ? エメラルドグリーン? ターコイズブルー? いいえ、これは「グレイシャーブルー」。グレイシャーとは「氷河」のこと、氷河の融けた水が見せる不思議な青色です。そして、アッパー・ジョフリー・レイクの真上には「あの景色」、この水の色の源、氷河がありました。

Joffre Mountain(ジョフリー山2721m)とSlalok Mountain(スレィロック山2653m)の間から舌のように出ているMatier Glacier(マティエ氷河)です。今では湖まで繋がっていませんが、以前は湖畔まで延びていたそうです。その何千年、何万年前の昔はアッパー・レイクからローワー・レイクまでを覆っていたとか。3つの湖は氷河が削り取った跡ということになります。日本にもかつては氷河があり多くの景観は残していますが、そのものはもうひとつも残ってはいません。氷河こそは外国へ行かないと見ることができない景色なのです。とても大きいのですぐ近くに見えますが、氷河の先端はまだ上のほう。一塊でも落ちてきたらどんなことになるのでしょうか。その迫力はこの場所でも十分ですが、先端付近までも歩いて行くこともできるそうです。このときは、やはり残雪が多く危険と判断し行くのを中止してここを目的地としました。氷河を仰ぎ見ながらランチにします。

アッパー・レイクの湖畔は無料の州立公園内のウィルダネス・テントサイトに指定されている。ここで迎える星空はどんなものだろうか(photo:すずき)

ランチを食べていると岩陰に動くものが! こちらを伺いながらアチコチに移動しながら顔を出すマーモット。最後は日向ぼっこに落ち着いた様子
(photo:すずき)

腰を落ち着かせるとジワジワと凄い場所に抱かれていることに気づきます。重厚な山のスケール感にカナダを感じずにはいられません。私にとってのカナダの山は頑丈そうな山塊と氷河と湖とセットで記憶されています。15年前に初めて衝撃を受けた山はまさにこんな感じだったと思い出し懐かしいとともに、この間に山の知識も増えて改めて見上げる山に新鮮な衝撃を受けました。15年前も山はなにも変わらずここにあったことでしょうが、その当時の私はこのようなかたちでカナダに戻ってくることを微塵も思っていませんでした。山と出会えたこと、再びカナダを訪れる機会を与えてもらったこと、このご縁に感謝せざるをえません。

カナダには野性味のある手付かずの大自然がたくさんあります。この国土の広さはやはり日本にはない特別なものです。日頃の窮屈を忘れ、手足の指までも開くような解放感を多くの人たちに味わってもらいたいなぁ、とおせっかいながら思うのです。これからもいいところどんどん紹介していきたいです! ちなみにウィスラー在住、ジュンさんとマーヤンの手足の指は開きっぱなしです。

開きっぱなしのふたり(photo:すずき)

鈴木みきプロフィール

鈴木みき
1972年東京生まれ。
山梨県・八ヶ岳南麓在住。
イラストレーター
24歳の時のカナダ旅行をきっかけに山にハマり、登山雑誌の読者モデルや山小屋アルバイトを経て、登山系イラストレーターとなる。

著書

「悩んだ時は山に行け!」
(平凡社)

「あした、山へ行こう!」
(講談社)

「ひとり登山へ、ようこそ!」
(平凡社)

「山小屋で会いましょう!」
(講談社)

「山テントでわっしょい!極める「山女子」のヨロコビ」
(講談社)

「私の場合は、山でした!
女一匹フリーター、じたばた成長物語」
(平凡社)

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