Miki’s Essay 鈴木みきのカナダのお山へGO! 第16回

ヴィア・フェラータでウィスラー山に岩登り?! ~BC州滞在記 その11~

(photo:Jun Yanagisawa)

アウトドア・アクティビティのネタが尽きないウィスラー、今日はなにをするんだろう!(なにをさせられるんだろう!)とドキドキの毎日。この日のアクティビティは、「ヴィア・フェラータ(Via Ferrata)」! ……ってなに!? まあそうでしょう、ご存知の方のほうが少ないはずです。私の知っている限り、日本にはないアウトドア・スポーツです。簡単に説明すると「ひとりでもできる、命綱のついた岩登り」。これでもピンとはこないでしょう、私だって実際にやるまではイマイチ分からなかったですから。

(photo:すずき)

岩稜の山々が多いイタリアが発祥の「ヴィア・フェラータ」、岩に打ち込んであるハシゴや鉄の足場を手掛かり足掛かりにして登っていきます。常に体の脇には鉄製のワイヤーが並走していて、それに自分の命綱を繋ぎます。ワイヤーには2~3m間隔で支点が設けられていて、万が一、足を滑らせても自分の手前の支点で引っかかって止まるので2~3mしか落ちません。…といっても2~3m、絶対に落ちたくはないですね。私は以前に雑誌でヴィア・フェラータの記事を読んだことがあったのですが、このような説明を読んでいても理解していたとは言えませんでした。でもクライミングの経験もありましたし、高いところが好きなので一度やってみたいなぁと思っていたのです。

少し胸を弾ませてウィスラー山のゴンドラへ乗り山頂駅まできました。以前にも書いたように残雪が多くてトレッキングコースはクローズされたままでしたが、ヴィア・フェラータは関係なく行けるようです。数日で雪がなくなるわけでもなく山頂部にはたっぷりありましたが、登るのは岩! 垂直の岩には残雪も関係ありません。ゴンドラを降りてすぐにあるガイドセンターへ行くと、すでに何人かの人がいました。壁側にはレンタルの登山靴がズラリと並びます。床にはこれから使うと思しきヘルメットとハーネス…んん!? ピッケル!?? 途端に及び腰、一体どんなことになるのでしょうか。「何が起きても自分の責任です」という書類にサインをしてレンタルする道具のフィッティングです。登山靴以外をすべてお借りしましたが、ハーネスが大きくてズルズル…一抹の不安が過ぎります。

ヘルメット、ハーネス、そして…ピッケルも!

これは、かつて初めて降り立ったカナダの空港で感じた自分の小ささへの不安をよみがえらせました。15年前、ひとりで空港に到着した私は、トイレに行き便座に座ったのですが足が付かなかったのです。あのとき、この国で私は成人として認められるのだろうか、やっていけるのだろうかと思ったものです。この場でいうならサイズはあるだろうか、ズルズルのまま連れて行かれないだろうか、でした。いちおうアピールして取り替えてもらえました…子供用ではなかったと今でも思っているのですが、どうだったのでしょうね。そしてヴィア・フェラータ用のカラビナとスリングが2枚付いた独特の器具、ヘルメット、本当にピッケルまで持たされて出発です。

参加者は私たち以外に3名、いずれも女性でアウトドアとは無縁な雰囲気の観光客なことが意外でした。命綱を付けての岩登りですから、もっと山っぽい人たちが来るのかなと思っていたのです。好奇心旺盛というか怖いもの知らずというか、とにかく元気! 初めて持つピッケルに「マウンテン・クライマーみたい!」とはしゃいで写真を撮っていました。こんなノリで大丈夫な場所なのかしら? ますますヴィア・フェラータが謎に包まれてしまいました。登る岩も微妙にガスに包まれていますし、この際よく考えずに思いきり良く挑むしかありません。

分かりやすいレクチャー。それにしても女性ガイドさん格好良すぎです!(photo:すずき)

まずは岩場を目指し、広大な雪の斜面を歩いてトラバースしていきます。途中、ガイドさんから雪面の歩き方と下り方をレクチャー、続いてワイヤーとカラビナの繋ぎ方、登る手順を教えてもらいます。もちろん英語で行われますが動作も伴うせいか自然に理解できたような気がしました。細かいところはジュンさんに確認しましたが、ここでの説明が分からないと岩場では危険なので、もし参加した時には恥ずかしがらず分かるまで聞いてください。ちなみにこのときのガイドさんは親切でかっこいい長身の女性でしたが、言葉が分かるか随時、気にかけてくれましたよ。

海外に来てピッケルなんぞ持たされると、先ほどの参加者のようにははしゃげませんが、ジワジワとテンションが上がっているのを感じます。ふっふっふ、海外登山って感じ! ひとり勝手に悦に入るも20分ほど、岩の取り付きに到着です。いよいよここからがヴィア・フェラータの始まりです。器具の扱いを確認してガイドさんから登り始めます。前を登る人がワイヤーの支点まで登り、カラビナを次のワイヤーに架けたら次の人が登り始めます。私とジュンさんはいちばん後ろ、前を登り始めた参加者の嬉しいのか悲鳴なのか分からない声を聞いて待っています。ハシゴも足場もとても頑丈そうです。足を滑らさなければ、そこまで危ないというようには見えません。

あの岩壁を下から上まで登るのです。ザイルも繋いで本格的だ~!

いざ、私の番がやってきました。1歩、2歩、3歩…ヒィ~~、やっぱり一応声は出てしまうもののようです。ハシゴは頑丈ですが、体が地面から離れたことに対するヒィ~です。クライミングと違って足と手が岩にくっついているのでもなく、岩から飛び出た金具の上です。宙に浮いたような感じなのです。

最初の支点を無事に架け替えられると「ホッ」、説明されたことがきちんと理解できた瞬間です。なにしろ「そのもの」を見たことがないのですから、実際がどうなっているかなんて想像でしかなかったのです。「こういうことか!」とりあえずはヴィア・フェラータの仕組みは分かりました。

順調に登っていきます。他の参加者も好調、怖いという声は聞こえてきません。振り返るとかなり高いところにいます。歩いてきた氷河の大きさに驚きます。この日も遠望はなかったのですが、下のほうまで見えたらどんな感じだったかしら? 逆に見えないほうがよかったのかも? と前の参加者を待っている間に眺めていました。距離的にはさほどではなかったと思いますが、高度感はすごい。高所恐怖症の人にはすすめられないアクティビティかな。

さらに登っていくと、ハシゴや鉄の足場もなくワイヤーだけが延びているゾーンも登場、さながらロッククライミングです。今度はむき出しの岩を掴んで登って行くわけですが、けっこう怖い。それはそれで怖い。ちゃんと大きな手掛かりも足掛かりもあるのですが精神的に負けている私は心臓がバクバク、気が急いでしまって支点を架け替え忘れ、体がガツンッとなって進まずに焦ったり…つくづくクライミングはメンタルのスポーツだと思い出しました。

それとやっぱり体のサイズが小さいからか、ハシゴの間隔が広く感じました。カラビナの架け替えポイントに立ち手を伸ばすのですが、微妙~に届かないこともしばしば。ハシゴのない岩にもう1歩登ったり、背伸びをして架け替えました。まあ、仕方がない、ここは外国ですからね、と自分を励ましたり…。

それにしても、みんな達者にこなしているのに感心します。クライミング経験のある私でも肝が冷えるような箇所もあったのですが(私がヘナチョコなだけかな)、泣き言ひとつもなく怒り出す人もなく元気に全員でウィスラー山に登頂しました。この岩壁から山頂に飛び出るというのは何とも気分がいいものなのです。登山道からじゃないんだぜ、私たちは岩壁を登ってきたのさ! と自慢したいところでしたが、誰もいませんでした。そりゃそうです、トレッキング・クローズですから。私たちだけが極めた山頂ということで、それはそれでご褒美となりました。

やったー! 無事に登頂できました!やっぱりガイドさん男前過ぎるでしょ。

背後のウィスラー氷河を上から駆け下りてきましたよ(photo:すずき)

登ったはいいが、下りはどうするの? と疑問でした。ウィスラーの場合は歩いて下山です。岩を回り込んで最初に歩いた氷河を上部から下ります。再度ピッケルの出番です。残雪があるので、ある程度の柔らかさがあり、スキーで滑るように下っていけて私とジュンさんは楽しかったです。が、他の参加者は岩よりもこちらに難儀していたようす(イメージは富士山の砂走り)。この大きな斜面がスキー場のコースだっていうんだから、やはりウィスラーは規模が違う!

自分の安全を確保しながら、ちょっとスリリングを味わえるヴィア・フェラータ、クライミングの経験がなくてもアスレチック感覚で楽しむことができます。そんなにお目にかかれる場所もないのですが、どこかの国で見かけたらトライするべきでしょう。良かったら、ウィスラーにはありますからね!

イラストでレクチャー

鈴木みきプロフィール

鈴木みき
1972年東京生まれ。
山梨県・八ヶ岳南麓在住。
イラストレーター
24歳の時のカナダ旅行をきっかけに山にハマり、登山雑誌の読者モデルや山小屋アルバイトを経て、登山系イラストレーターとなる。

著書

「悩んだ時は山に行け!」
(平凡社)

「あした、山へ行こう!」
(講談社)

「ひとり登山へ、ようこそ!」
(平凡社)

「山小屋で会いましょう!」
(講談社)

「山テントでわっしょい!極める「山女子」のヨロコビ」
(講談社)

「私の場合は、山でした!
女一匹フリーター、じたばた成長物語」
(平凡社)

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