Miki’s Essay 鈴木みきのカナダのお山へGO! 第19回

「スタンレー・パーク・サイクリング」と「グランビル・アイランドで初挑戦」 ~BC州滞在記 その14~

(photo:Jun Yanagisawa)

スタンレー・パーク・サイクリング

トーテムポール・パークを出た私たちは快調に自転車を走らせます。見えてきたのはライオンズ・ゲート・ブリッジ、あれを渡った先はノースバンクーバーという住宅エリアです。私たちはその橋の下を通過、ここがプロスペクスト・ポイントといってスタンレー・パーク外周のちょうど半分くらい、突き出た半島のいちばん先っちょです。橋の下を行き交う船がなんともいい感じ! とみんなが思うようで、撮影スポットになって混雑していました。このように道が細く往来が多い場所は、自転車を降りて歩くようにと指示看板があるので従います。ついでに私も写真をパチリ、パチリ。

まるでハワイのようなビーチ
(photo:すずき)

ここを過ぎると今までの入り江の雰囲気からかわり、だんだんビーチ沿いを走るようになります。足を水につけて、休んでいる人もちらほら。道幅も広く開放感のある道に自然と鼻歌も飛び出します。しかしそろそろお腹も減ってくるころ、約束のレストランに到着するはずなのですが…。
実はバンクーバー観光局のジョーダンという人とランチをする約束をしていて、スタンレー・パークにある人気レストランを予約してあったのです。私はどんなレストランか知りませんでしたが、名前が「Tea House」と地図に記されていたので、てっきりお茶を飲むようなカフェスタイルと想像していました。

ところが到着してみると上品で清潔感のあるお洒落なレストラン。そうだった、カナダはイギリスの植民地時代が長く、建築も文化もイギリスのスタイルが色濃く残る場所でした。素敵なイングリッシュガーデンの横にバイクを停めてヘルメットを脱ぎ、少し照れくささも味わいながらなかに入っていくと、店員さんの対応も紳士的で背筋が伸びるようでした(でもご安心を、ドキドキしたのは私だけ、お店はとてもフレンドリーです)。

(photo:すずき)

おすすめのオープンサンド(ピザ?)は本当に美味しかった! 無理しないでいいわよ、と言われた大きさをひとりでペロリと食べて驚かれました。だってお腹が空いてたんですもの! バンクーバーっ子のジョーダンはとってもグルメ、いろんな美味しいお店を知っています。私の食べっぷりに感動したのか、たくさんお店を教えてくれました。

グランビル・アイランドで初挑戦

ファーマーズ・マーケットも人気! 見ているだけで楽しい
(photo:すずき)

ジョーダンに別れを告げ、再びバイクに跨り出発です。そしてしばらく走るとスタンレー・パークともお別れをして一般道へ、快適なサイクリングが続きます。 次に目指したのはグランビル・アイランド。グランビル橋の下にある小さな島にマーケットやレストラン、ギャラリーに工芸品屋さんが集まっている観光スポット、というよりもデートスポットという感じでしょうか。おしゃれなお台場みたいなイメージです。

島に渡るには橋を使う方法ともうひとつ、渡し船に乗る方法があります。船に自転車も乗せられるというので桟橋で待っていると、以前ビクトリアで乗ったポンポン船と同じような箱型のカラフルな可愛い船がやってきました。自転車を積んでほんの5分ほどの楽しい船旅。私は東京でも大阪でも水上バスに乗るのが好き! 水面から見る街というのは、また違う情緒があるんですよね。
…なんて呑気に言っていられたのは今のうち…このとき楽しみにしていたグランビル・アイランドであんなことになろうとは。

グランビル・アイランドに上陸すると、遊園地かサーカスに来たかのような賑わいでした。広場には大道芸が繰り広げられ、家族やカップルが楽しそうに囲んでいます。ここであるアクティビティを予約してあったのですが、予定時間までに余裕があったのでマーケットやギャラリーを散策。一応、いくつになっても女子なので、ショッピングは大好き! 時間があれば1日かけてまわりたいくらいにお店がたくさんあります。島のなかには美術学校もあって、アートな香りも漂ってきます。一角でトーテムポールを掘っている工房があったので食い入るように見ていると、時間が迫ってきました。

(photo:すずき)

賑やかな中心部に戻りそこを通り抜けるとハーバーが現れました。その近くにあるショップで今日のアクティビティの受付をします。桟橋でライフジャケットをフィッティング…そう、私はこれからシーカヤックに挑戦するのです! なんと初めてのシーカヤック! でも、ストラスコナではカヌーで無人島まで数時間も漕ぐ経験もしたし、なんとなく大丈夫だろうと思っていたのです。自慢にもなりませんが、水辺のスポーツにまるで縁のなかった私の人生、カヌーとカヤックの違いもよく分かっていませんでした。

(photo:すずき)

目の前に運ばれてきたカヤックをカヌーと比べてみると艇のかたちも違いますが、大きな違いはオール。カヌーは水かき面が片方だけでしたが、カヤックは両側にあります。となると漕ぎ方も片側だけではなく、歩くように左、右と交互に漕ぐことができるようです。
と、ここまではアウトドア誌などで写真を見ても分かることですが、私にとっての衝撃は足にペダルがあることでした。

「え? 足も使うんですか?」
足のペダルはスワンボートのように漕ぐ用ではありません、舵です。カヌーは手(パドル)で行きたい方と逆を多く漕げば曲がっていきます。推進力も手で、いたってシンプル。カヤックは足が舵で推進力は手。でも、自転車だって自動車だって舵は手で推進力は足。そう、それがカヤックは、逆。もうそこで心が折れていたと告白しましょう。こんな運動音痴がいきなり逆のことができるはずがありません。まさか! と思う人のほうが多いと思いますが、まさかの運動音痴なんですよ、私。しかも、カヌーは5人で乗りましたが、今回はひとりぼっち…。いちばん信用できない自分と乗るなんて!! 負け試合はこの時点で決まっていたも同然、しかし取材で来ている以上、乗るしかない…ガイドのお兄さんも笑顔で待っています。

一歩、足を艇に入れます。カヤックが左右に揺れます。この時点でサングラスの奥では心の冷汗が滲んでいました。艇が桟橋から離れないようにガイドのお兄さんが押さえてくれていますが、素早く次の足も入れて座らないと安定しません。大人なんだからちゃんとやらないと、という理性だけでさっとカヤックに座りました。お兄さんが自分の艇に乗り込むために手を離します。
「行かないで~~~~~~!!!」大人の心の叫びです。私の頭のなかは、これがひっくり返ったら? という悪夢で一杯です。お兄さん英語で何か言ってくれていますが、私には今、英語は聞こえません。ゆら~っと艇が桟橋から自然に離れていってしまいます。
「ヒィ!」声にもなりません。とりあえず足は使わずカヌーのように手だけでゆっくりお兄さんのほうへ、彼が押してくれるように狭い場所からハーバーに出ました。ジュンさんは遠くの方でスイスイとアメンボのように漕いでカメラを構えています。

「なんでみんなと一緒のことができないんだろう…」こうなったらおしまいです。運動音痴のトラウマは40歳になろうが60歳になろうが、きっとぶり返すのです。心の動揺は即座に艇のバランスに響き、細かく左右に傾く気がします。しかも、やたらに水面が近いのです。下半身は水面より下にあるようなもの。私の感じ方だと漕いでいる肘が水に付きそうでした(実際は付かない)。

さっきは、なにが水面から見る街が好き? 情緒が違うだって? クルーザーやヨットに両側を挟まれて、街の景色なんてしっかり見えない。私は浮いている木の葉です。さざ波が目眩のように襲ってきます。ポンポン船で渡ってきた橋の下まで来ましたが、一向に慣れる気配もありません。ポンポン船にボートにクルーザーにと、どんどんやってきて波を残していきます。向こう岸に渡れません。もう泣いていました。涙を拭きたいけど両手は力いっぱいオールを握っています。サングラスの下から涙が溢れて流れます。でもパドルは離せない。

ガイドのお兄さん、そりゃあビックリです。慌ててジュンさんのほうに漕ぎ出し、なにか告げています。私はじんわーり、と自分の艇が橋脚にぶつかっていくのをスローモーションで見ていました。
ジュンさんがやってきて「大丈夫?」と聞いてくれたと思いますが返事を待たなくても大丈夫ではないと分かったのだと思います。入れ替わりにお兄さんがやってきて「君はよくやったよ。初めてのカヤックにボクのカンパニーを選んでくれてありがとう」。私は大泣きしてフツフツと煮えている頭のなかで、ここだけ冷静に「外人ぽいこと言うな…」と思っていました。
「ジュンと相談して予定していたコースは中止にしようと思う、もう戻ったほうがいいよね?」と言うので「イエス」と声を絞り出しました。

ものの20分くらいだったのでしょうか? 5分だったのか1時間だったのかも定かではありません。帰りながらお兄さんが懸命に励まそうとして話しかけてきます。だからね、英語は聞こえないんだよ、と逆切れしつつ目眩に怯えつつ、無事に地上に帰還することができました(読者のみなさま、レポートできずごめんなさい)。

その世界では有名な老舗ショップ「ECO MARINE」。これまでの歴史に泣いた人はいるだろうか? お兄さん、好青年だったのに泣いてごめんなさいね

そんなわけで時間も余ったので、腰掛けてカモメを観察しながらゆっくりコーヒーを飲み落ち着きました。シーカヤック、また乗る日があるでしょうか…?
しかし、お兄さんの面子のためにも言っておきますが、普通なら私と同じ未経験者でも1~2時間の簡単なコースは十分に楽しむことができるアクティビティなんです。一人乗りが不安ならガイドさんと二人乗りの艇ももちろん用意がありますので、安心して挑戦してみてくださいね。
泣き疲れて帰路に。夕暮れ迫る景色に自転車を漕いでいると夏休みの終わりみたいでした。

(photo:すずき)

鈴木みきプロフィール

鈴木みき
1972年東京生まれ。
山梨県・八ヶ岳南麓在住。
イラストレーター
24歳の時のカナダ旅行をきっかけに山にハマり、登山雑誌の読者モデルや山小屋アルバイトを経て、登山系イラストレーターとなる。

著書

「悩んだ時は山に行け!」
(平凡社)

「あした、山へ行こう!」
(講談社)

「ひとり登山へ、ようこそ!」
(平凡社)

「山小屋で会いましょう!」
(講談社)

「山テントでわっしょい!極める「山女子」のヨロコビ」
(講談社)

「私の場合は、山でした!
女一匹フリーター、じたばた成長物語」
(平凡社)

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