Miki’s Essay 鈴木みきのカナダのお山へGO! 第23回

バンクーバー生まれのアークテリクス

(photo:Jun Yanagisawa)

「アークテリクス(Arc’teryx)」というアウトドアブランドをご存知ですか? 山道具屋さんやアウトドア雑誌をよく見ている方ならきっと「ああ、あの高いやつね!」とすぐにピンとくるのではないでしょうか。山道具の専門店だけではなく、ファッションの人気セレクトショップやファッション雑誌にも紹介されているので、山登りはしなくともその名前だけは見たり聞いたり、はたまた着ていたりしているかもしれません。そのくらいファッション性も高いハイブランドと言っていいでしょう。

私もカッコ良いなと以前から思っていましたが、その価格にそう気軽に手を出せませんでした。そんな憧れともいえるブランドが実はバンクーバー生まれなんです! これは意外と知られていないように思います。私は職業柄もあって知っていたので、今回の取材が決まったときから、きっと現地で買ったらいくらか安いだろうと自分へのお土産にしたいとすでに企んでいたことを告白しておきましょう。そして噂に聞く世界に1軒しかない「ファクトリーアウトレット」にあわよくば行けるといいなぁと思っていたのでした。それがなんと、本社の取材として伺えることが決まったのはカナダ到着後でした。会社訪問の許可がもらえたのです。

バンクーバー郊外、ハイウェイの出入口のほど近くにアークテリクス本社が建っていました。さっそく1階のオフィスへ、広いワンフロアで仕切りのないオフィスは明るい! 職種もあるのかもしれませんがスーツにネクタイなんて人は1人もおらず、働いている方々の服装はそれぞれにカジュアルです。そして1階にあるいくつかの個室のひとつには、なんとクライミングウォールが! 仕事の合間でも利用もできるそうで、行き詰まったときのいい気分転換になりそうです! 他にも製品の耐性などを実験するようなちゃんとした(?)部屋もありましたが、どこも明るい雰囲気でとても働きやすそうでした。

2階は実際に製品を作る部署となっていて、デザイナーやパタンナー、デスクもミシンも体育館のように広いフロアを共有していました。物作りチームは作業こそ分業ですが、横のつながりも必要です。そんなときに内線電話をかけて済ますのではなく、直接話せることができ、いつでも進捗が目で見えるようにと開かれた作りになっているそう。ラックにはサンプル製品がビッシリとかけられていて、洋服好きとしては1枚1枚に見せてもらいたいくらいでした。

クライミングウォールは社員の家族も使用できるそう。2階は発売前の商品や企業秘密もあるため撮影は不可でしたが、見たこともないかっこいいウエアがたくさんありました。今後の商品化に期待しましょう!

ここには「色」セクションという部署もありました。アークテリクスの色の表示をご覧になったことがあるでしょうか、「赤」「青」などの既存の名前はほとんどなく、例えば「岩山の赤」「冬の青」のような感じで、ときに花の名前だったり食べ物だったり、独自の表記で書いてあります。これは彼らが世界中を訪れた「色探しの旅」の成果で、自然からインスピレーションを得た色に名前をつけて採用しているから。なんでも、毎年ステキな色探しの旅をしなければならないというのだから羨ましい! だから他のブランドにはない色合い、配色なのだなぁと納得しました。もし私が働けるならこのセクションが希望です。

さらに歩いていると2人の男性がなにやら談笑していました。この方こそ今ではメジャーになった「止水ファスナー」を開発した張本人! 「止水ファスナー」とはレインウエアやザックなどに使われている平べったいテープのような防水ファスナーのことです。これこそが日本でアークテリクスの名前を知らしめた機能なんです! アークテリクスの代名詞と言っても過言ではないのです。私も最初に見たときは驚きました。それを開発した方が目の前にいるだなんて感激でした。どのブランドも同じだと思いますが、開発したものを販売するまではテストにテストを重ねて改良に改良を重ねます。ここではその時間を惜しまないのだとか。何年かかって開発してもテストしても改良しても納得しなければ販売しないポリシーを貫いているそうなんですね。ということは、たくさんぶら下がっているこのウエアたちも日の目を見るのは何年も先になるのかもしれない…。

それからこんなお話も伺いました。これは製品が高価な理由の大きなひとつだと感じたのですが、「セール品を作らない」ということ。きちんとした市場調査を行い、売れそうな分しか作らないのだということです。日本語でいうところの「薄利多売」をしないということです。「自分たちが自信を持って作りたいものしか作らない」という創業当初の想いを貫いているのです。こだわった製品を少なく作ればコストは高くなってしまいますが、少なく作れば損も少ない、ゴミも作らないという理念はこれからも変わらないとおっしゃっていました。

そのあともオフィスを案内していただきましたが、なんとも皆さんが明るくリラックスして働いているのが伝わってきました。犬同伴で出勤している人が多かったもの印象的です。デスクの下に自分のワンちゃんが寝そべっているなんて、なんだか夢のようですね。日本もそのうちにこのような会社が増えてくるのでしょうか。ストレスの少なさが仕事の遊び心を生んでエポックメイキングに繋がるのかな、なんてことを感じた会社訪問でした。

高価なのには理由があることを知れば納得して、さらには考え方に賛同して購入したいという気持ちになるというもの。興奮冷めやらないまま同じ建物内にあるファクトリーアウトレットで…そのあたりはご想像にお任せします。

鈴木みきプロフィール

鈴木みき
1972年東京生まれ。
山梨県・八ヶ岳南麓在住。
イラストレーター
24歳の時のカナダ旅行をきっかけに山にハマり、登山雑誌の読者モデルや山小屋アルバイトを経て、登山系イラストレーターとなる。

著書

「悩んだ時は山に行け!」
(平凡社)

「あした、山へ行こう!」
(講談社)

「ひとり登山へ、ようこそ!」
(平凡社)

「山小屋で会いましょう!」
(講談社)

「山テントでわっしょい!極める「山女子」のヨロコビ」
(講談社)

「私の場合は、山でした!
女一匹フリーター、じたばた成長物語」
(平凡社)

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