Miki’s Essay 鈴木みきのカナダのお山へGO! 第33回

スタンレー・グレイシャー・トレイル(1)

(photo:Shinichi Yajima)

朝8時、ホテルのロビーに集合してワンデイ・ハイキングに出発です。
ランチを調達しがてらフィールドにあるカフェで朝食。町でひとつしかない小さいカフェには、地元の人が忙しく出入りして朝食やランチを買っていきます。常連客が朝の挨拶を交わしているのがアットホームでほのぼの。旅先でこういうお店に出会うとすごく得した気分になります。

今回歩くのはクートニー国立公園にある「スタンレー・グレイシャー・トレイル」、名前の通りにグレイシャー(氷河)に続くルートです。ガイドのNさんによるとちょっと珍しい景色も見られるとのこと。楽しみです。
トレイルヘッド(登山口)にある大きな駐車場に着くと、すでに車が6~7台ほど停まっています。コースや注意事項が書いてある看板が立ち、清潔感のあるトイレもありました。ここでNさんからカナダでのハイキングの基本ルールを教えてもらいます。
① 6人以上で歩く
② グループから離れて歩かない
③ 整備されたトレイルを歩く
④ なにも取らない
⑤ ゴミは持ち帰る
③〜⑤は日本でもお馴染みですが、①〜②はあまり厳しくは言われないことですね。この2つは熊や狼などの人を襲う可能性のある野生動物に対してのルールです。カナダはベア・カントリー、日本の山とも勝手が違いますので是非守りたいですね。ちなみに国立公園内で熊が特別多く生息しているエリアでは6人以上ではないと歩いてはいけない(許可が出ない)というコースもあるんですって。熊の話はまた別の回でしますね。

さて、ゆっくりと歩き出します。実はNさんの言っていた珍しい景色は駐車場からも見えていました。見渡す山の斜面には黒くて枝もない木が、点々と一面に広がっています。よく見ると地面には倒木だらけ。その隙間を埋めるように腰ほどの高さの緑が揺れています。そして微妙に焦げ臭い…。どうですか?なんなのかわかりますか? 実はこれは山火事の跡なんです。
スタンレー山の麓では1968年と2003年に大きな山火事があったそうです。最後の山火事から9年。ここはその間の森の再生を間近に見ることができるトレイルなのです。山火事と言うと人間にとっては恐ろしいものですが、森によっては不可欠なサイクルであることがあります。かつては山火事が起これば消火活動が行われましたが、今では自然発火による山火事はできるだけ手を入れないという管理体制に変わったそうです。自然発火の主な原因は落雷と枯葉や幹の摩擦によるものですが、カナディアン・ロッキー一帯はとても乾燥しているので、一時発火するとひと夏中燃え広がることもあるといいます。

カナディアン・ロッキーの森と山火事のふかーい関係

山火事がもたらす森のサイクルとは…みなさんも想像してみてください。ヒントは多様性です。多様性のある森が動植物にとって理想だとすると?
きっとみなさんも私と同じ理由を思いついたのではないでしょうか。ひとつは「太陽の光」です。どんどん植物が育つと森は地面まで光が届かなくなります。そうすると日陰を好む植物と太陽を浴びられる背の高い木だけが生き残り、その植物を好む動物や昆虫だけがやってきます。そしてそれだけしかない森になってしまうのですね。「前の森のほうが楽しくて好きだったな~」という鳥や昆虫の声が聞こえてきそうです。
そしてもうひとつは、土の再生です。カナディアン・ロッキーのように標高も高く、雪も多く乾燥している場所では、枯れた植物や倒木が土にかえりにくいので土の栄養が乏しくなってしまいます。ところが山火事が起こると、燃えた森そのものが灰になって土の栄養になりよみがえるというわけなのです。これには「へえ~」と言ってしまいました。

簡単に言えば、山火事が起こることによって森は生まれ変わり、その間にたくさんの種類の植物が育ち、それとともにさまざまな動物も昆虫も集まってきます。その死骸や糞はやがて土となり栄養となって……と自然のサイクルがぐるぐると長い時間をかけて回るのです。
ちなみに日本ではどうしているのかというと、人間の手で消火活動をします。これは山のそばに暮らしがあるということもありますが、森の成り立ちも気候も違うので自然発火による山火事はほとんどないからなのです。林野庁のHPによると、日本の山火事での発火原因は「焚き火」など人間の不始末がもっとも多いのです。私たちが気をつけないと!ですね。

このトレイルでは、約10年経った今でもまだ火事の跡は生々しく、高く育った植物はありません。山火事の後にまっさきに生えてくるのは、ロッジポール・パインという松の種類とファイヤーウィード(ヤナギラン)です。この日もヤナギランのピンクのお花がユラユラと可愛らしく揺れていました。ロッジポール・パインも幼木がたくさん出ていました。、これが何十年後かには真っすぐな立派な木になるのでしょうね。このロッジポール・パイン、種になる松ぼっくりを2種類用意しているんです。ひとつは毎年落とす通常用、そしてもうひとつは山火事が起きたあとに芽を出す非常用!非常用の松ぼっくりは、40度以上の環境でしか発芽しないように作られているんですって!植物の生き残りの知恵には驚かされるばかりです。本当にたくましい。

こうして山の植物の深〜い話を聞きながら歩いていると、つくづく、私は今ここでしか見ることのできない自然の姿を見ているのだなぁと思います。Nさんがもうひとつ教えてくれました。カナダの山々がヨーロッパと違うのは、人が入植してきてから人が住みついていないことだと。誰も見たことも歩いたこともない大自然がまだ途方もなく残っている、この目の前のどこか向こうにも。
ほんのちょっとだけだから、私にも歩かせてね。そんな気持ちになるスタンレー・グレイシャーへのハイキングです。

鈴木みきプロフィール

鈴木みき
1972年東京生まれ。
山梨県・八ヶ岳南麓在住。
イラストレーター
24歳の時のカナダ旅行をきっかけに山にハマり、登山雑誌の読者モデルや山小屋アルバイトを経て、登山系イラストレーターとなる。

著書

「悩んだ時は山に行け!」
(平凡社)

「あした、山へ行こう!」
(講談社)

「ひとり登山へ、ようこそ!」
(平凡社)

「山小屋で会いましょう!」
(講談社)

「山テントでわっしょい!極める「山女子」のヨロコビ」
(講談社)

「私の場合は、山でした!
女一匹フリーター、じたばた成長物語」
(平凡社)

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