Miki’s Essay 鈴木みきのカナダのお山へGO! 第34回

スタンレー・グレイシャー・トレイル(2)

(photo:Shinichi Yajima)

山火事の跡を、少しずつ標高を上げながら歩いていきます。息が苦しくなるような道ではなく斜面をトラバースしながら奥に入っていくという感じです。奥には大きな岩壁が立ちはだかるように続き、さらに奥には鋭角に尖がったスタンレー山の山頂も見えます。その山頂付近から流れでているのがスタンレー氷河です。しかしそこからでは雪があるのが確認できるほどで、その全貌は見ることはできません。トレイルはその氷河を一望できる場所まで続いています。

燃えた木々のなか、徐々に葉をつけた緑の高い木が混ざり始めました。山火事はこの辺りで鎮圧したのかな、と思っていると急に高木の茂る緑の山になりました。焼けたところと焼けなかったところが明白です。もし9年前に山火事がなければ、この山全体はこういう景色だったのだと思うと不思議な気分です。

トレイルは斜面のトラバースから谷間に入っていきます。右側に常に立派な岩壁を感じながら歩きます。植生も豊かになってきてファイヤーウィードの数は減っていきました。鳥や虫なども見かけるようになり、先ほどとは明らかに違う風景です。

(photo:すずき)

ぬかるみに動物の足跡を発見しました。パッと熊が思い浮かんだのですが、それにしては少々スマート? ガイドのNさんに聞いてみるとマウンテンライオン(クーガー)かもしれないとのことでした。日本にはいないですが、カナダでは人間に危害を加える可能性のあることで知られるネコ科の動物です。その姿はほとんど見かけることがないそうで、それだけにどこに潜んでいるか分からない怖さがあります。初めて見る足跡に改めて自分はカナダのワイルドカントリーにいるのだと言い聞かせました。

(photo:すずき)

しばらくいくと樹林も背が低くなり、高山帯になっていきます。ここまでくると目の前が開け、スタンレー氷河の全貌も見えてきます。大きな岩がゴロゴロし始めると今度は可愛い動物が顔を出しました。リスです。リスはカナダのトレイルでは頻繁に出会うことができる動物です。愛嬌たっぷりに岩から顔を出したり隠れたり、近くに来ようとしたり離れていったりと忙しく動き回っています。私たちがそこでランチを広げると次々に4匹ほどのリスが現れました。ここはリスたちの縄張りなのかな? 真相はわかりませんが文句なく可愛らしい姿を振りまいてくれました。

私はこれまで何度か氷河を見るチャンスに恵まれましたが、いつも思うのが「大きすぎて、その大きさが分からない」ということ。大きいのは一目瞭然なのですが、実際は想像を超える大きさなのです。そのギャップにいつも戸惑い、どんなスケール感で氷河を見ればいいのか分からなくなってしまうのです。呆然とその眺めのいい場所で、カフェで調達したサンドウィッチを食べました。

さらにスタンレー氷河の懐へ

ランチを食べ終わるとNさんから提案がありました。
「実はここが今日のハイキングの終点です。しかし全員の足並みも揃っていて元気なので、もう少し先まで歩いていこうと思いますが、みなさんどうですか?」

必ずしも山頂を目指すわけではないのが、カナダのハイキング。このようなビューポイントが折り返し地点というコースも少なくありません。たとえ、そこから先に道が続いていても「Trail End」(トレイル終点)と看板が立っていたら、そこから先へはきちんと装備し自分の責任で進んでくださいというエリアになります。日本で言うなら「ここまでは散策路」「ここからは登山道、山岳地」というイメージでしょうか。

せっかく現地のガイドさんが同行してくださっているのに、この機会を逃す手はないと私たちはふたつ返事でYES! そこから少し見上げる岩の台地まで進むことにしました。
すると先ほどまでとはうって変わって足元が厳しくなります。岩がゴロゴロガレガレと歩きにくく、息の上がる急登です。日本の登山に慣れていると「ようやく登りだした」という感覚です。終点では何組もハイカーがいましたが、こちらに歩いてくる人はおらず私たちだけの貸切り。先ほど見上げていた山の台地まで登ると、そこには氷河から融けて流れた小川があり、そのまわりには水を好む植物たちが集っています。緑の絨毯を敷いたような平和的な風景。雷鳥の親子も人を恐れることなく自由に歩いています。今、登ってきた岩場の殺風景さが嘘のような緑に溢れた平らな場所でした。そしてその目の前にはスタンレー氷河が! こんな場所があったんだなぁ…向こうからではまったく分かりませんでした。これだから山歩きはやめられません。

さらに近づいたことでスタンレー氷河がやっぱり私が思っていた以上に大きいことが分かりました。しかし近づいたことで見えた先端部のクレバスの巨大さにさらに困惑してしまいます。やっぱりデカイ! 雷鳥親子に別れを告げ氷河を背に来た道を下っていきます。リスがいた場所に戻ると、再びリスが遊んでいます。例の動物の足跡まで下りてきたころには、いい山歩きだったなぁと気持ちが大らか。キフチタテハという高山蝶が私の前を舞い、私とカメラマンはすっかりいい気分でゆっくりとグループの後方を離れて歩いていました。そこへ「ねえ?あなたたちは見た?」と年配の夫婦が声をかけてきました。「私たちが来るときにそこの斜面に熊がいたのよ!」
私たちは「いいえ…」と答えると、誰からとでもなく小走りにグループに追いついたのでした。

鈴木みきプロフィール

鈴木みき
1972年東京生まれ。
山梨県・八ヶ岳南麓在住。
イラストレーター
24歳の時のカナダ旅行をきっかけに山にハマり、登山雑誌の読者モデルや山小屋アルバイトを経て、登山系イラストレーターとなる。

著書

「悩んだ時は山に行け!」
(平凡社)

「あした、山へ行こう!」
(講談社)

「ひとり登山へ、ようこそ!」
(平凡社)

「山小屋で会いましょう!」
(講談社)

「山テントでわっしょい!極める「山女子」のヨロコビ」
(講談社)

「私の場合は、山でした!
女一匹フリーター、じたばた成長物語」
(平凡社)

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私の場合は、山でした!女一匹フリーター、じたばた成長物語

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