Miki’s Essay 鈴木みきのカナダのお山へGO! 第37回

アイスライン・トレイル(1)

(photo:Shinichi Yajima)

タカカウ・フォールズを背に、車道を渡った反対側に「アイスライン・トレイル」のトレイルヘッド(登山口)があります。この登山口からは他にもヨーホー・レイクに行くハイライン・トレイルやヒドゥン・レイクに行くトレイルなど、いくつかのコースに続いています。駐車場や登山口には身支度をするハイカーの姿もチラホラ、その荷物の様子をみるとどうやら日帰りハイキングのよう。それに比べ私たちのザックの大きいこと。それは用意周到な日本人だからというわけではありません。今回私たちは1泊2日のハイキングにチャレンジするからなのです。それも山小屋に泊まって!

カナダのハイキングやバックパッキングの基本は、自分たちに必要な装備をすべて持っていくことです。日本の山のように登山口にコンビニがあったり、途中の山小屋で何か買うこともできません。山は山、川は川、あるがままの自然を楽しむという考え方がカナディアン・スタイルです。それなのでカナダの山や自然を泊まり歩くとすると、通常はテント泊。山小屋が少ない代わりにテントサイト(キャンプ指定地)が多く点在しています。今回は、その数少ない山小屋に泊まれる、もうこれだけでも貴重な体験になりそうで期待が高まります。

(photo:すずき)

登り始めは樹林帯です。ヨーホー・バレー一帯はタカカウ・フォールズの上げる噴霧で湿気があり降雨量も多く、乾燥した気候のロッキーのなかでは珍しい植生が見られるのだそうです。それに巨木も多いんですって。そう言われてみると土もしっとりとしていて、どことなく日本の登山道を歩いているような気がします。森が再生中のスタンレー・グレイシャー・トレイルでは見られなかった高山植物も現れ始めました。

トレイルでは、すれ違うハイカーと「ハロー」「ハーイ」と挨拶を交わします。山に限ったことではありませんが、挨拶するときは誰もが笑顔でしてくれるのでこちらも笑顔になります。こういうのは習慣なので日頃から心がけたいなぁ。
と、そこに凛としたユニフォーム姿の男性が下りてきてガイドのNさんとお話をしています。その男性は「パーク・ワーデン」と呼ばれるカナダ国立公園の管理官の方。公園内を歩き、モニターをして環境を維持し、またそこに入る人の安全を守るのが仕事です。カナダでは皆から尊敬される、憧れの職業なんだとか。Nさんはよく山に入るのでワーデンとも顔見知りが多いようです。彼は長年勤め上げて来年リタイアする(と話していたと思う)ベテラン中のベテランワーデン。優しそうでかっこいいですよね!

この前半の登りはなかなか急登、森の中をつづら折れで標高を稼ぎます。ただ、これを登りきってしまうと横移動が続くので、前半こそが踏ん張りどころです。まだかまだかと思うこと1時間ほどで森林限界を迎えます。2000mに満たない高さでしょうか、登り出しの標高も高かったので日本の山に比べると呆気なかったようにも感じます。だから私は油断していました。まだしばらくは樹林帯を行くのだろうと。それがいきなり宙に投げ出されたような景色に一変します。登り始めの頃は見上げていたタカカウ・フォールズが眼下に見えます。遮るものがなく広がるのは山ばかり。大きな山の向こうに大きな山、そのまた向こうも大きな山、そこに白い氷河がところどころにへばりついています。「アイスライン・トレイル」はその名の通り、氷河や氷原を眺めながら歩けるコースです。山をトラバースするように道が続いていきます。その雄大な景色、迫力、大きさ、これがカナディアン・ロッキーなのだと強く思いました。

タカカウ・フォールズに注ぐ水の源、ワプティック氷原とその先端のひとつ、デイリー氷河がよく見えるところで休憩を入れることにしました。こうして見ると融け出した水が低いところに集まって流れていく様子が分かります。滝を間近で見たときはその水量に驚きましたが、氷河や氷原の大きさから考えるともしかしたら小さいくらいなのかな? とも思えてきます。他にも融け流れている場所もあるのかもしれませんが、そりゃ、あのくらいの水量になるよね、と納得する傍ら、あんなに融け続けるのだなとも感心します。
Nさんに尋ねると、20年前に比べて氷河や氷原は見た目で分かるくらい縮小しているとのこと。地球のサイクルから言えば縮小方向に進んでいくのは然るべきですが、やはり以前に比べたら融ける速度も早くなっているのかな? そんなことも考えていました。
しかし、こんな眺めのなかにいられるなんて幸せだなあ!

つづく

鈴木みきプロフィール

鈴木みき
1972年東京生まれ。
山梨県・八ヶ岳南麓在住。
イラストレーター
24歳の時のカナダ旅行をきっかけに山にハマり、登山雑誌の読者モデルや山小屋アルバイトを経て、登山系イラストレーターとなる。

著書

「悩んだ時は山に行け!」
(平凡社)

「あした、山へ行こう!」
(講談社)

「ひとり登山へ、ようこそ!」
(平凡社)

「山小屋で会いましょう!」
(講談社)

「山テントでわっしょい!極める「山女子」のヨロコビ」
(講談社)

「私の場合は、山でした!
女一匹フリーター、じたばた成長物語」
(平凡社)

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