Miki’s Essay 鈴木みきのカナダのお山へGO! 第38回

アイスライン・トレイル(2)

(photo:Shinichi Yajima)

眺めの良い場所での休憩を終え、再びアイスライン・トレイルを歩き始めます。今日の行程は山小屋までおよそ10キロ、撮影などを見込んだコースタイムは7時間、まだ先は長いのです。10キロというと、日本の「登山」の感覚だと1日の行程としては長いほうです。しかしこのコースはここまで登ってしまえば、なだらかなアップダウンの横移動が続きます。たとえば日本のルートでは、ほぼ平坦な道が11キロ続く上高地から横尾までのような感じといえばイメージがつきやすいでしょうか。
さて、出発した私たちは遠望できる氷河や氷原だけでもかなり満足して歩いていました。足元はしっかりした固い道なので景色を眺めながら歩くことができます。鼻歌だって飛び出してしまいます。それくらい気持ちがいいのです。

(photo:すずき)

グループのいちばん後ろを歩いていた私と矢島カメラマン、撮影のため前方の仲間が尾根の影に回り込むのを待っていました。1人、2人、3人と尾根影に消えていくと「キャー!!」「ええーーっ!?」と大きな声が聞こえました。姿はないがキャアキャアと歓声だけが聞こえる…「なに?! なにがあるの!!?」気になって仕方がありません! はやる気持ちを我慢して矢島さんの合図で歩き出します。1歩、2歩、3歩……「ええーーーっ!!?」やっぱり私も声を上げてしまいました。「こ! これは!!」すると後ろから「ええーーっ!!」、矢島さんです。

私たちの前に現れたのはエメラルド氷河、5キロの長さで横たわっています。白い涅槃(ねはん)像のような堂々たる質量です。前方を歩く仲間と比べるとその大きさが分かります。これが「アイスライン・トレイル」の本当の意味だったのかと気づきます。この先はこのエメラルド氷河の末端に沿うように歩いていくのです。大きすぎてちょっと怖い気もします。なんだか寝ている恐竜の横をコソコソ歩いていくような、分かりにくいかもしれませんがそんな感じです。遠望していた氷河と間近にある氷河の大きさのギャップを感じます。そんなこといってもロッキーにはエメラルド氷河よりもはるかに大きな氷河が山ほどあるのですから…やはりスケールがつかめません。

(photo:すずき)

氷河は文字通り氷の河です。初夏に日本の山でよく目にする雪渓とは別のものです。長い期間に堆積した雪が自重で圧縮されて氷となったもので、1万年以上前の氷河期にできたものも残っています。これが、悠久の時の中で河のように動き続けているのです。
氷河は地球の彫刻家ともいわれ、長い年月をかけて多くの山を削り出しました。ほとんどの氷河は融けて消えてしまいましたが、世界にはまだまだ見られるところもたくさんあります。ちなみに、以前は日本の氷河は消えてしまって存在しないとされていましたが、昨年2012年には立山周辺で3つの氷河が認められたと発表がありました。氷河そのものは日本には3つしかありませんが、実は氷河によって削り出された痕跡は涸沢カールに代表されるカール地形といって、皆さんが登っている日本の山にも数多く見ることができるんですよ。

その氷河、前記したように年に数十センチから数メートルという気が遠くなるような速度ですが常に動いているのです。上部の重みに押し出されているのですが、今、私たちはその先端部分を見ながら歩いているわけです。その先端の更に下部の氷は一体いつごろ積もった雪なのでしょう? 私は氷河を見るとその歴史のスケールにも敬服してしまうのです。もしかするとまだ誰も見たことのないものが閉じ込められてるかもしれませんよ~。

エメラルド氷河に出合うと足元が四角いゴロゴロした岩に変わります。これはかつて氷河が山を削って運んできた岩や岩くずたちです。イメージは河に土手があるのと同じです。この地形のことをモレーン地形というのですが、アイスライン・トレイルはこのモレーンをいくつも越えていきます。この岩の土手、なだらかではありますが実は大きいのです。丘か小山といったものもあります。
土手を登るとその先には氷河が融けて溜まった池が現れたりもします。これまで見たことのある氷河湖の色とは違う、乳白色のグレイシャーブルー。濁っているようにも見えますが、近づいてみると透明、なかなか神秘的な色です。
単調な道のようで歩けば歩くだけ違う景色があるので飽きることはありません。見たこともない高山植物もたくさんあってその度にときめきます。訪れたのが9月だったので花は期待していなかったのですが、まだ咲いているものも多く、目を楽しませてくれます。

(photo:すずき)

森林限界を超えてからの行程の中間くらいが、このコースの最高地点(2230m)です。際立って「ココ」という場所はないのですが、そこを超えると少しずつ下っていくことになります。トレイルヘッド(登山口)が1520mだったので標高差は710mですが、モレーンのアップダウンを加えた累計標高差はかなりあるのではないでしょうか。しかし道は快適、足は快調、どんどん歩いて行きたくなります。

(photo:すずき)

最高地点を過ぎたあたりでNさんが用意してくださったお弁当でランチタイムです。カナダのほとんどのガイドツアーでは食事を作る心配はいりません。用意してくださったお弁当は各自で運びますが、自分では行動食のスナックを調達するだけなので楽チンですよね。
Nさんのガイド会社では日本人のお客さんが大半なので、お弁当もおにぎり。「おてふき」がついている細やかさはさすが。カナダでは売っていないので、わざわざ日本から買って送ってもらうのだそう。おにぎり大好き、日本人の原動力は米だ! と信じている私にはとっても嬉しいお弁当でした。さあ、あと半分だ!

つづく

鈴木みきプロフィール

鈴木みき
1972年東京生まれ。
山梨県・八ヶ岳南麓在住。
イラストレーター
24歳の時のカナダ旅行をきっかけに山にハマり、登山雑誌の読者モデルや山小屋アルバイトを経て、登山系イラストレーターとなる。

著書

「悩んだ時は山に行け!」
(平凡社)

「あした、山へ行こう!」
(講談社)

「ひとり登山へ、ようこそ!」
(平凡社)

「山小屋で会いましょう!」
(講談社)

「山テントでわっしょい!極める「山女子」のヨロコビ」
(講談社)

「私の場合は、山でした!
女一匹フリーター、じたばた成長物語」
(平凡社)

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