Miki’s Essay 鈴木みきのカナダのお山へGO! 第41回

アイスライン・トレイル(5)

(photo:Shinichi Yajima)

深夜になって雨の勢いは増し、激しい風が小屋を震えさせました。屋根裏の小さな窓に閃光が差すと、地面が轟くような雷でした。まだ9月、しかしカナディアン・ロッキーに夏の終わりが近づいてきたのです。明日はどうなるのだろう? そんなことを考えながらシュラフにもぐり込みました。

朝、目が覚めると気づかないうちに数人が出発していました。少しだけガランとした屋根裏は相変わらず薄暗く、窓は結露していて外の様子は分かりません。ハシゴを下りていくと、Nさんたちはキッチンにいて朝食の準備をしていました。仲間たちの数人はまったりとコーヒーをすすっていました。外を見ると明るい曇り空に山が見えています。トイレに外に出ると空気は一層澄んでいて小屋の温もりに包まれた体に冷たい風が気持ちよく感じました。伸びをしながら山を眺めると昨日とどこか違う雰囲気。目を凝らしてみて「あ!」・・・。昨日の雨は稜線近くで雪になっていたようです。岩肌がうっすらと白いベールに覆われています。森林限界を歩くのが昨日でよかったなぁ、と山を見上げながら思いました。

アイスライン・トレイル2日目は出発したタカカウ滝へ戻るコースです。昨日のうちに標高をずいぶん下げたので標高差はさほどではありません。それでも4~5時間はかかります。朝食の準備ができるまで荷物を整理しておくとします。のろい私は気をつけて先に先にやっておく癖が日本の山小屋でついています。ですが、ふと周りを見るとお茶を飲みながら窓辺で本を読む男性、いまだ起きてこない女性、歩く支度がすべて出来ているのに外でおしゃべりしていて出発しないグループ、なんだかみんなマイペース。マイペースというといい意味ではないこともありますが、これはいい意味です。本当にみんな自分の時間を大切に過ごすのが上手なのです。それを眺めつつ私も二度寝しようかと思いましたが、意味を履き間違えている気がして思い留まりました。こういうのは付け焼刃では格好つかないもの。日頃から余裕をもって過ごしたいものです。
朝食のにゅうめん(温かいそうめん)で胃袋を温めると今日のランチが渡されました。昨日のランチが入っていた入れ物がお弁当箱になって返ってきました。本当に至れり尽くせり。

雲間に青空も覗くころ、私たちも出発です。結局、私たちが最後の出発者となりました。最後にキッチンの水を満タンにして、管理人さんに挨拶をしました。
歩き出すとすぐに森になり小屋は見えなくなりました。木々が深くなり山の景色ともしばらくはお別れです。徐々に標高を下げるようになだらかな道が続きます。雨に濡れた森は昨日とはまた別の風景。同じ花とは思えない姿のものもありました。トレイルの途中で何度か川と出合います。そのあたりは森もひらけているので絶好の休憩ポイント、昨夜一緒に泊まった仲間に追いついたり抜かれたりもします。
途中で昨夜は見かけなかった若者3人と会いました。彼らはカナダの学生で、テントで泊まったのだそう。日本だとテント指定地はたいてい山小屋の側にあり見えていることが多いのですが、カナダでは離れていることのほうが多いようです。そもそも山小屋のほうが少ないので、山小屋とテント指定地はまったく別のものと思っておいたほうが良さそうです。悪天だからといって山小屋に逃げ込むとか、食料が足りないから山小屋の売店に買いに行く(そもそも売店もありませんけど)なんてことはできないわけです。大自然にポツン。これがやっぱりカナダなのです。ふと心配になって私は3人に聞いてみました。「昨日の嵐は大丈夫だった?」 3人は顔を見合わせて「サイテーだったわ」と大笑いしていました。

標高を下げ切った川の近くでランチです。昨夜の雨のせいで水量は多く迫力のある眺めです。お弁当箱を開けると「のり弁」! ささっと温かい飲み物も差し出されます。ほとんどの食料が私たちの体に収まってしまったガイドさんのザックの重さは昨日とは雲泥の差なのだろうなと思います。逆に私たちはたくさん食べて少し大きくなったような気もします。たくさん歩いて消費しよう! と張り切りましたが、残りの行程はまっすぐ伸びる平らな道でした。私たちは横に並んでペラペラ話しながら歩きました。たった2日間だったのに思い出話は尽きません。昨日より身近に思える仲間と旅の終わりを味あわせてくれるように、その道は最後まで続きました。

鈴木みきプロフィール

鈴木みき
1972年東京生まれ。
山梨県・八ヶ岳南麓在住。
イラストレーター
24歳の時のカナダ旅行をきっかけに山にハマり、登山雑誌の読者モデルや山小屋アルバイトを経て、登山系イラストレーターとなる。

著書

「悩んだ時は山に行け!」
(平凡社)

「あした、山へ行こう!」
(講談社)

「ひとり登山へ、ようこそ!」
(平凡社)

「山小屋で会いましょう!」
(講談社)

「山テントでわっしょい!極める「山女子」のヨロコビ」
(講談社)

「私の場合は、山でした!
女一匹フリーター、じたばた成長物語」
(平凡社)

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